[活動報告]シリーズ スポーツファーマシスト

シリーズ スポーツファーマシスト

第1回 スポーツファーマシストとは

大分県薬剤師会では、大分国体の前年の平成19年からアンチ・ドーピングホットラインを開設し、アンチ・ドーピング活動を行っています。しかし、2016年には希望郷いわて国体において国体初のドーピング違反者が出たりと日本においてもドーピング違反者が年に数名出ています。これから2019年にはラグビーワールドカップ、2020年には東京オリンピックと日本において世界的なスポーツイベントが行われます。そこで、アンチ・ドーピング活動を専門に行うスポーツファーマシストについて3回に分けてご紹介させて頂きます。

スポーツにおけるドーピングを防止することを目的として、公益財団法人 日本アンチ・ドーピング機構(JADA)は、最新のアンチ・ドーピングに関する知識を有する薬剤師を養成するための認定プログラムである公認スポーツファーマシスト認定制度を2009年1月23日より実施しています。 公認スポーツファーマシストとは、最新のアンチ・ドーピング規則に関する知識を有する薬剤師のことで、薬剤師の資格を有した方が、JADAが定める所定の課程(アンチ・ドーピングに関する内容)終了後に認定される資格制度です。資格認定までの流れとスケジュールは下記の通りです。認定期間は4年間で、更新維持の条件として毎年、実務講習(e-ラーニング)を受講することが義務付けられており、認定更新を行う際には有効期限中の4年目にあたる年に基礎講習(e-ラーニング)、実務講習(e-ラーニング)を受講し、知識到達度確認試験を受け認定更新を行います(更新料は別途受講料7,400円と20,500円必要)。認定者は、全国に8,711名(2018年4月2日 時点)、大分県に37名(2018年5月1日 時点)います。 公認スポーツファーマシストの活動内容としては、医薬品の適正使用とアンチ・ドーピングに関する情報提供、学校教育の現場におけるアンチ・ドーピング情報を介した医薬品の使用に関する情報提供、地域におけるスポーツファーマシストの存在とアンチ・ドーピング活動の周知、国民体育大会に向けての都道府県選手団への情報提供・啓発活動などがあり、大分県においては主に大分県薬剤師会を窓口としてこのような活動を行っています。平成29年度の活動内容は大分県薬剤師会の会報に掲載していますのでご参考にして下さい。 現在、スポーツファーマシストの活動の場は多くありませんが、スポーツファーマシストとして活動できる場を少しでも増やすように活動を行っており、会員のスポーツファーマシストの方にも一緒に活動して頂ければと思っていますので、ご興味のある方は資格取得を目指していただければと思います。

※資格認定までの流れとスケジュール

4~5月:受講者募集受付(受講料:7400円) (先着順で、定員になり次第締め切りになります。)

6~7月:基礎講習会開催 11~12月:実務講習申込受付

12月~1月:実務講習(eラーニング) 知識到達度確認試験(eラーニング) 認定申請(認定料:20500円)

4月1日 認定

 

第2回 国民体育大会に向けての大分県選手団への情報提供・啓発活動

主なアンチ・ドーピング活動として、7月から10月にかけて国民体育大会に向けて大分県選手団への情報提供・啓発活動があります。内容は、メディカルチェックの問診票チェック、各競技団体でのアンチ・ドーピングの講義、国民体育大会九州ブロック大会結団壮行式・監督会議及び国民体育大会結団壮行式・監督会議でのアンチ・ドーピングに関する講義です。

メディカルチェックの問診票チェックは、国体の大分県代表選手が決まるとメディカルチェックを行います。その際、問診票に現在飲んでいるサプリメントや薬を記入してもらいます。そのサプリメントや薬が禁止物質にあたらないかをチェックします。全選手の問診票をチェックするので、数回に分けてチェックを行い、その結果を各競技団体へ返します。海外製サプリメントを服用している選手もおり、チェックすることで選手や競技団体がアンチ・ドーピングに対して意識するようになりドーピング違反を防ぐことができているのではないかと思います。

各競技団体でのアンチ・ドーピングの講義は、大分県薬剤師会に直接依頼があるか大分県体育協会からの依頼で競技団体の合宿所等へ出向き、30分から1時間くらいの講義を行います。国体選手への講義依頼が多いですが、国体選手に限らず高校やチームから依頼があることもあり、相手の要望に応じて時間及び内容を選んで講義を行っています。講義は、主に実際の尿検査での検体採取方法、サプリメントや医薬品において気をつけないといけないこと(海外製サプリメントはできるだけ避けることや市販の風邪薬や漢方薬に気をつける)、アスリートとしてやらなくてはならないこと(意図的であるかないかアスリートに落ち度があるかないかに関わらず違反は違反であること、規則を守っていることをアスリート自身が証明すること)やできること(TUE(治療使用特例)の申請、未成年アスリートの特別措置等)について話をします。禁止物質や禁止方法についても話をしますがうっかりドーピングを防ぐことが主な目的ですので、特にうっかりドーピングをしやすいもの(海外製サプリメント、市販の風邪薬、漢方薬等)について重点的に講義を行うようにしています。

国民体育大会九州ブロック大会結団壮行式・監督会議及び国民体育大会結団壮行式・監督会議でのアンチ・ドーピングに関する講義は、壮行式後に行われる監督会議において監督やコーチ等に大会直前や大会中で気を付けてほしいこと(市販の風邪薬や漢方薬に気をつけ、わからない時には飲む前にアンチ・ドーピングホットラインに連絡することや病院を受診した際にはドーピング検査を受ける可能性があること、また禁止物質を含まない薬にしてもらうことを伝えること等)について5分程度話をします。

スポーツファーマシストの活動の場は徐々に広がっています。興味のある方は是非お声掛け下さい。今後も大分県体育協会と連携して、大分からドーピング違反者が出ないようにアンチ・ドーピング活動を行っていきます。

 競技団体での講義

 高校での講義

 

第3回 国民体育大会に向けての大分県選手団への情報提供の現状

前回、主なアンチ・ドーピング活動として、7月から10月にかけて国民体育大会に向けて大分県選手団への情報提供として、メディカルチェックの問診票チェックをあげました。今回は問診票チェックの内容について詳しく話をさせていただきます。

国体の大分県代表選手が決まるとメディカルチェックを行います。その際、問診票に現在飲んでいるサプリメントや医薬品を記入してもらいます。その他、身体の状態やけがの状態なども記入をします。その問診票を、医師(外科、内科)、歯科医師、薬剤師でチェックを行い、選手に対して受診するようになどの情報を提供します。

スポーツファーマシストが行うのはサプリメントや医薬品についてです。問診票に記載のあるサプリメントや医薬品が禁止物質にあたるかあたらないかをチェックします。夏季、秋季、冬季と分けて全選手の問診票をチェックするので、数回に分けてチェックを行い、その結果を各競技団体へ返します。医薬品とサプリメントを比べるとサプリメントの方が多いのが現状です。医薬品については、明確な回答ができるのですが、サプリメントについては、自己責任で使用して下さいと言わざるを得ません。

医薬品は、主に喘息の薬が問題になります。糖質コルチコイドの吸入薬は禁止ではありませんが、β2作用薬は一部を除いて禁止物質になります。特に日本では発作を抑える薬として主にプロカテロールの吸入薬が使用されますが、プロカテロールは禁止物質になります。β2作用薬で使用できるものは、吸入サルブタモール、吸入ホルモテロール、吸入サルメテロールです。使用量の上限はありますが、通常の用法用量では問題ありません。上限を超えて過度に使用した場合はドーピング違反となります。

他に、インスリンを使用している選手もいます。インスリンは、S4.ホルモン調節薬および代謝調節薬にあたる為、禁止物質になります。インスリンは代わりになる医薬品がない為、TUE(治療使用特例)の申請が必要になるので申請を行うように指導します。

サプリメントについては、服用している選手は多くJADAの認定商品を勧めていますが、JADAの認定商品を服用している選手は少ないのが現状です。プロテインが多いですが、毎日服用する為、JADAの認定商品より価格の安い海外製などのプロテインを服用している選手が多いです。海外製のサプリメントはコンタミネーション(生産工程における禁止物質の混入)の可能性がある為、特に注意が必要です。実際に海外製サプリメントのある商品では、2015年度以前ではドーピングになったことはなかったのですが、2016年度には蛋白同化薬、2017年度には興奮薬が検出されてドーピング違反となっています。このようなうっかりドーピングにならない為にもJADAの認定商品をお勧め致します。

このようなアンチ・ドーピング活動は主に個人で行いますが、個人で判断できない場合や自信のない場合などは複数のスポーツファーマシストと相談して判断を行っています。さらに、今までは賠償責任保険の適用外だったのですが、2019年2月15日からアンチ・ドーピング活動保険が開始になる予定です。いざという時も加入していれば賠償に関して保険が適用されるので、活動しやすくなると思います。

スポーツに興味のある方、スポーツの場で職能を発揮してみたいと思う方は、是非、一緒にアンチ・ドーピング活動を行っていきましょう。